イタリア南部ナポリの小さな島・・・30歳の青年マリオは、漁師の父親の後を継ぐ気もなく
怠惰な毎日を送っていた。
そんな、彼の暮らしを大きく変えたのは、高名な詩人パブロ・ネルーダとの出会いだった。
『イル・ポスティーノ』は、1996年5月に日本公開され、多くのファンを得た作品です。
そこは南イタリアの小さな島
イタリア南部ナポリにある小さな緑の島・・・その島に住む30歳の青年マリオは、漁師である父親の後を継ぐ気もなく、今時風に言えばニートのような生活を送っている。
そんな彼の暮らしを大きく変えたのは、高名な詩人パブロ・ネルーダとの出会いだった。
高名な詩人は母国を追われた亡命者
詩人でもあり外交官のネルーダは、その政治的な姿勢のために母国のチリを追われたが、支援者の尽力で 妻マテルデと共に、この島に居を構えることになったのだ。
高名なネルーダの元には、世界中から山のようなハガキや封書が届くが 配達員がいない?
そのため、局長1人で運営されている島の郵便局では、人手が足りなくなり、彼の元に郵便物を運ぶ “配達員”を雇い入れる必要が生じた。
イル・ポスティーノはイタリア語で「郵便配達人」
マリオは、自前の自転車を使用するという条件も合って、首尾よくその仕事を手に入れ「郵便配達人」として毎日ネルーダ邸に通うようになる。
初めは郵便物を届けた時にわずかなチップをもらうだけの関係だったが、彼はネルーダの温かみのある人柄に引かれ、2人の間には、いつしか友情が生まれていく。
そんな時マリオは、酒場に勤める美女ベアトリ―チェに一目惚れし、恋の成就のため詩人に協力を求めるのだが・・・。
イタリア伝説の感動作!
『イル・ポスティーノ』は、ナポリ沖合の小さな小島を舞台に、貧しい純朴な青年が、島を訪れた詩人との友情を通して次第に自己に目覚め、愛を知り、人間として成長していく姿を温かくユーモラスに描いた感動作。
本作のロケ地となったサリーナ島は、地中海エオリエ諸島に浮かぶ小さな島で、双子のようによく似た2つの山と、豊かな緑にコバルトブルーの海に恵まれています。
人口3000人に満たない のどかなこの島は『イル・ポスティーノ』のロケ地となったことから映画の大ヒット共に、世界中に知られるようになりました。
シチリアが舞台の映画
地中海の潮の香りと、オリーブやワインの匂いが島を包む、イタリアのシチリア諸島・・・
風光明媚なイタリアのシチリア島を舞台にした映画は、数多くあります。
- 美しくも切ない幻想的なラブストーリーを描いた『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
- アラン・ドロンの「太陽が知っている」を現代風にリメイクした『胸騒ぎのシチリア』
- 一人の少年が大人へと成長していく姿を感情豊かに描ききった『マレーナ』
- 激動の時代を生き抜いた一人の男の波乱万丈の物語『シチリア!シチリア!』
- シチリア人マフィアの 地生臭い盛衰を描いた『ゴッド・ファーザー』シリーズ
イタリアの文化を少しでも知りたいなら、イタリア映画を観るのがオススメ!
『イル・ポスティーノ』は、実在するチリの詩人から着想を得た友情と愛の物語です。
実在したチリの偉大な詩人 パブロ・ネルーダ
パブロ・ネルーダは若いころから詩人として名をなし、チリの国民的詩人として知られています・・・南米ではチェ・ゲバラと同様に、左派のヒーローの一人であり共産主義者でした。
1945年には上院議員に当選後、同時にチリ共産党に入党したが、1948年にビデラ政権によって共産党が非合法化されたため、国外逃亡を余儀なくされました。
『イル・ポスティーノ』は、ネルーダのイタリア亡命時代を題材にした作品です。
”友である故マッシモに捧げる”
本作『イル・ポスティーノ』の終幕 エンドロール前に”友である故マッシモに捧げる”
・・・と、このようなクレジットが挿入されています。
これはマイケル・ラドフォード監督が、本作の主演男優にして共同で脚色を手掛けた、マッシモ・トロイージに捧げた献辞でした・・・そしてこの簡潔な献辞こそが、本作を“伝説”へと昇華させたともいえます。
主演俳優はクランク・アップ後に死亡
本作は、実在したチリの偉大な詩人パブロ・ネルーダをモデルに、同じチリの作家アントニオ・スカルメタが書いた小説『バーニング・ペイシェンス(燃える忍耐)』を、名作「スプレンドール」などに主演した、イタリアの喜劇俳優マッシモ・トロイージが映画化した作品。
トロイージは、10年来の親友であるイギリスのマイケル・ラドフォードに監督を依頼し、予定していた心臓移植の手術を延期してまで撮影に臨んだが、日に日に極度に体力が衰えクランク・アップの12時間後の95年6月4日に41歳の若さで亡くなりました。
トロイージは、撮影時に心臓病に冒されており すぐに手術しなければならない程の危険な状態だった・・・病に冒されながら撮影し、そして本作の完成試写会は観れなかったのです。
アメリカではジュリア・ロバーツ、スティング、マドンナらと、この映画に感動した人々がサントラ盤用に ネルーダの詩の朗読に参加したのも話題となりました。
96年度キネマ旬報外国映画・ベストテン第1位
『イル・ポスティーノ』は1994年に撮影され、その年の「ヴェネチア国際映画祭」オープニングを飾った後、製作国イタリアで大ヒットしました。
さらに、その年度の第98回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、オリジナル音楽賞の5部門にノミネートされ、外国作品としては異例の好評価を獲得し、結果的にルイス・バカロフのオリジナル音楽賞が授賞しました。
『イル・ポスティーノ』は、96年5月の日本公開時でも多くのファンを獲得し、96年度「キネマ旬報」外国映画ベスト・テンで第1位となりました。
「キネマ旬報ベスト・テン」とは?
「キネマ旬報ベスト・テン」は、映画専門誌のキネマ旬報が主催する日本で最も歴史がある映画賞で、映画評論家を中心に映画を数多く鑑賞する100名以上の選者などが、その年を代表する「日本映画」と「外国映画」を投票で選びます。
『イル・ポスティーノ』あらすじ
スペインの内戦で、フランコ率いる反乱軍と民間軍の戦いがはじまり、フランコ側にはナチスが支援し、民間軍にソ連やアメリカが支援をする。
スペインにいたネルーダも、民間軍に協力して共産主義者となった。
チリに戻るとチリでもクーデターが起き、そこでも共産主義者として抵抗するが、政権が変わりチリでは共産主義は違法となり、亡命することになる。
亡命先は南イタリアの小さな緑の島
青年マリオは、お父さんと二人で暮らしている。
お父さんは漁師だが貧しい家庭で、海のそばで窓から見ていると、入江で漁師が小さい舟に乗って投網で魚を獲っている。
マリオは、漁師である父親の後を継ぐ気もなく、怠惰な生活を送っていた。
ある日、チリの偉大な詩人で外交官のパブロ・ネルーダが祖国を追放されてイタリアに亡命し、妻と共にこの島に滞在することになった。
郵便配達員がいない!
高名なネルーダの元には、世界中から山のようなハガキや封書が届くが 配達員がいない?
局長1人で運営されている島の郵便局では、人手が足りなくなり、彼の元に郵便物を運ぶ “配達員”を雇い入れる必要が生じた。
世界中から届くファンレターを配達するため、マリオは臨時の配達人として採用された。
マリオは、自転車に乗って毎日ネルーダ邸に配達に行く。
最初は恐縮しながら届けに行くが、だんだん慣れてくると買った本にサインを貰った。
彼はネルーダの温かみのある人柄に引かれ、2人の間には いつしか友情が生まれる。
ネルーダは美しい砂浜で自作の詩をマリオに聞かせ、彼は穏やかで不思議な感覚を与えた。
詩って何ですか?
彼はまた、詩の隠喩(メタファー)について語る。
マリオ:詩って何ですか?
ネルーダ:それは隠喩だよ
隠喩ってなんですか?
君は棒のように立っている、私は石のように立っていると言い返して「それが隠喩だよ」と。
マリオは、学問もない暮らしだけど だんだんと詩を覚えていく。
”どうしたらうまく書けますか?”・・・浜辺を歩くんだよ、と教えながら二人で浜を歩く。
ネルーダはチリの同志たちが誕生日のお祝いに送ってきたテープをマリオに聞かせ、自分が議員であった頃、坑夫たちの過酷な現実を知り、その深い悲しみの中から詩が生まれたことを語る。
マリオは美しい娘に心奪われる!
そんな時、彼は島の食堂で働く美しい娘、ベアトリーチェに心奪われる。
マリオは、ネルーダが現実の妻・マテルデに送った詩をベアトリーチェに捧げた。
これが彼女の親代わりのローザ叔母の逆鱗に触れ、ネルーダの所に抗議してきた。
他人の詩を使うことは感心せんと言うネルーダに、マリオは“詩は書いた人間のものではなく、必要としている人間のものだ”と詩の本質を突き、詩人を唸らせてしまう。
やがて2人は結婚
やがて、2人は結婚し、ネルーダが仲人役で結婚式を挙げる。
チリでは追放令が解除され、ネルーダ夫妻は母国に帰国した。
心に大きな穴が空いたマリオの元に、詩人から味もそっけもない事務的な手紙が届き、彼の自尊心が傷つけられる。
彼の心の世界が広がった
しかし、翌日、再び別荘でネルーダが残したテープを再び聞いた時、マリオは悟った。
詩人によって人生の目を覚まされた自分の方こそ彼に手紙を書くべきなのだ、と。
翌日から彼は、これこそ自分の書くべき詩だと 自然の音とそれを歌った詩を録音し始め、彼の心の世界は広がった。
亡き友を忍ぶ
数年後、ネルーダ夫妻が島を訪れた時、そこにはベアトリーチェとマリオの息子パブリートの姿しかなかった。
マリオは共産党の大会に参加し、ネルーダに捧げた詩を労働者の前で発表するために大衆の中かき分けて進んだ時、暴動が起きてその混乱の中で命を落としたのだった。
ネルーダはコバルトブルーの海辺に立ち尽くし、亡き友を忍んだ・・・。
キャスト
マッシモ・トロイージ、 フィリップ・ノワレ、 マリア・グラツィア・クチノッタ、 リンダ・モレッティ、 アンナ・ボナイウート、マリアーノ・リギッロ、レナート・スカルパなどが出演。
『イル・ポスティーノ』はシチリア3部作の一つ!
1990年代に「シチリア3部作」といわれる名画が、相次いで撮影されました。
それは、海洋ロマン『グランブルー』と、映画への愛情が描かれた『ニュー・シネマ・パラダイス』・・・内容もミュージックも素晴らしく、いまだ、愛されている名画です。
そして、3部作の残りの一つが『イル・ポスティーノ』。
他の2作と比べ少し地味なイメージではあるが、当時のイタリア・シチリアの貧しい社会のなかで、主人公が亡命した詩人に心を奪われ、最後は破滅に向かう悲しい物語です。
でも、そこに人間としての尊厳も感じられる名作です。
『イル・ポスティーノ』は、素晴らしい海の景色と音楽が心に沁み、マリオの純朴さがとても心地よく 幸せな気持ちにしてくれます・・・まさに、伝説のイタリア映画。
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